【作家インタビュー】vol.4 刺しゅう作家 マカベアリスさん

【作家インタビュー】vol.4 刺しゅう作家 マカベアリスさん
【作家インタビュー】vol.4 刺繍作家  マカベアリスさん

作家インタビュー vol.42021.02.04

刺しゅう作家 マカベアリスさん

CRAFTINGをご覧いただいている皆様、こんにちは。
2月に入りました。皆様、お変わりないですか?

今週から刺繍作家のマカベアリスさんのインタビュー記事をお届けします。

刺しゅう作家になられたきっかけやアトリエへのこだわりなど、
ファンを魅了して止まないマカベさんの刺繍の物語について
毎週少しずつご紹介していけたらと思います。

どうぞおつきあいいただけたら嬉しいです。

刺しゅう作家さんになったきっかけを教えてください。

子どもが生まれて、何か作りたいという気持ちがあふれてきて。
「刺繍の世界は正解があるわけではなく、とても自由なんです」

「三人子どもがいるのですが、下の子が幼稚園に入ったころ、
何かどうしようもなく作りたいという意欲がわいてきたんです。

最初は子ども服をつくるところからはじめました。

とにかく布と針と糸が好きで、刺繍もはじめたのですが、
とても手ごたえがあったんです。

あ、これは自分に向いてるなと思いました。

とっても自由なんです、刺繍って。
絵を描くことと似ているところがあって、こうじゃないといけないというルールはないんです。
自分が好きにつくれる。

私は子どもの頃から人と同じことをするのが苦手な子で、
一人でいるほうが好きなタイプでした。

刺繍の世界が持つ自由な在り様が向いていたんだと思います」

友人と一緒に合同展示会に参加したり、ブログで作品を発表したり。
創作活動の場が少しずつ広がっていったマカベさん。

「ギャラリーの作品販売にお声がけいただいて。
そこから本格的に作家活動がはじまったようなところがあります」

そして、20代のころに留学していたイスラエルに、7年ほど前
2週間ほど滞在してから、ガラリと作風が変化したそうです。

「聖書の舞台でもあるイスラエルは、神さまと人間の物語の場所であり、
現地の方と心がふれあい、一緒にいった仲間と心が通じ合う感覚をもつことができたんです。

自分の殻が破れたといいますか。

神さまからいただいたいのち、感動を、あえてかたちにしたいと思いました」

そんな思いから、植物を愛でるような気持ちで作品にするように。

「植物を刺繍の図案にするのは、少しありきたりな気がして、
創作活動の初期はあえて避けていたようなところがあったのですが」

旅に導かれるように、いのちの輝きが映し出されているかのような
『植物』というモチーフを、刺繍の世界で表現してみたくなったと語ってくださいました。

▲作風に影響をあたえた、イスラエルの地にて(お写真をお借りしました)

▲取材にお応えいただいたマカベアリスさん。アンティークな家具には刺繍道具がすっきり整理されている

▲お気に入りの使い込まれた10cm刺繍枠と著書『植物刺繍手帖』(日本ヴォーグ社刊)

▲CRAFTINGに掲載中の、マカベアリスさんの刺繍キット作品の数々

アトリエについての思い入れをお聞かせください。

味わいのあるインテリアに愛用の刺繍道具が大切におさめられている場所
日常生活と隣り合わせで、美しい刺繍の世界が生み出されている

東京都杉並区の青梅街道沿いにある蚕糸の森公園(さんしのもりこうえん)にほど近く、
あたたかな光が差し込む、ご家族とともに暮らすマンションの一室がマカベさんのアトリエ。

「アトリエというより、作業スペースみたいなものなのですが(笑)
真新しいものよりも、どちらかというと味わいのあるインテリアが好きで」

時が刻み込まれた優しい風合いの収納家具に、大切に集めてこられた
布などが整理され、静かに出番を待っているかのようでした。

窓からは明るくて白い冬の陽射し。

マカベさんの一日を、日常を、包み込んでいる光に包まれながら
取材はおだやかに続いていきます。

▲新作の作品づくりに意欲的に取り組むマカベさんの手元。カメラが追い付かないほどのスピードで針が進む

▲本棚は刺繍に関連する内容のものから、お気に入りのモチーフである花や鳥、自然に関する本が並ぶ

マカベさんの一日のスケジュールをお伺いしてみると、
「いつも朝5時くらいには起床し、子どものお弁当づくりを始めます。
平行して朝食の支度をして、掃除など家事をさっと片づけたら、
8時30分くらいから、創作をスタートでしょうか?(笑)」

子育てママさんとしての一面をお伺いでき、共感するとともに、やっぱり尊敬のまなざしで見つめてしまいました。

お弁当と刺繍の美しい世界が、同じ手から生み出されていることに心動かされます。

そして
「刺繍は時間がかかりますから」
17時過ぎまで、針と糸と布に向き合う時間。

刺繍仕事の手は、今日もよどみなく美しいリズムを刻んでいました。

部屋のなかには刺繍に関連する本もおさめられており、その風景を
見守っているかのように息づいています。

▲刺繍糸の色は同じカラーリングで箱におさめられ、整理されている。微妙な色の違いが作品の表現の幅に

▲調度品のハトはリサ・ラーソンの作品。大切にされている感じが伝わってくる

本棚の撮影を許可していただいた今回の取材。

そのなかの一冊、海洋生物学者、レイチェル・カーソンの
『センス・オブ・ワンダー』の一節に、こんな言葉があります。

「子どもたちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激にみちあふれています。

残念なことに、わたしたちの多くは大人になるまえに澄みきった洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直感力をにぶらせ、あるときはまったく失ってしまいます。

もしもわたしが、すべての子どもの成長を見守る善良な妖精に話しかける力をもっているとしたら、世界中の子どもに、生涯消えることのない
『センス・オブ・ワンダー=神秘さや不思議さに目をみはる感性』
を授けてほしいとたのむでしょう。」

マカベさんの植物を愛でる眼差しと日常のなかで作品に向き合う感性は、
「センス・オブ・ワンダー」そのものでした。

今日のCRAFTINGマガジンはこれでおしまいです。

コロナ禍で時間が止まったように感じる日々ですが、
昨日に立春を迎え、暦のうえでは春になりました!
季節は確かに、めぐりつつあるようです。


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